2008/02/08
日本経済新聞 夕刊 20ページ

丸い背中に癒やされる
寒い冬場に、背中を丸めてじっとうずくまっている。縁側で微動だにせず日なたぼっこ。息づかいまで伝わってきそうな猫だ。頭の後ろあたりが何とも言えずいい。 素焼きの陶器製だが、生きているような温かみさえ感じてしまう。
どちらかと言えば犬派だったか。幼いころ飼っていた犬の賢さは覚えている。猫に目覚めたのは岩手県の知事公舎の庭で一匹の野良猫と触れ合ってからだ。
餌をやり始めたら、決まった時間に出没するようになった。そのうち家の中まで入れるようになった。犬ほど手間はかからず、向こうが来たい時だけやって来る気ままなやつ。人間と適度な距離を保つ素っ気なさに引かれ始めていた。
二、三年、そんな半野良状態が続いたろうか。ある時、十日ほど外国に出張して、帰ってきたら姿を見せなくなっていた。猫なんてそんなものかな。でも、盛岡の冬を野良猫が越すのは結構大変だろうな。 気がつけばもう猫派だった。
公舎だし、留守がちなので飼うのはためらった。せめてもの癒やしに、と置物や写真集などを集め出した。
二○○○年に福祉政策などの視察でスウェーデンを訪れた。ストックホルムでホテルに缶詰め、会議室と自室を往復するだけの滞在だった。どこにも出られず残念だなと廊下を急いでいると、 ショーウインドーの丸い背中がパッと目に入った。
一目ぼれで購入。壊れないようしっかり箱に詰めてもらい、随行の秘書を拝み倒してスーツケースの半分ほどを占拠。苦労して持ち帰った。 我が家の応接間の飾り棚には小ぶりの置物もたくさん鎮座しているが、これは本物並みの体格だ。猫好きの来客は両腕に抱いて写真を撮っていく。
知事を辞め、本物を飼おうかと思った矢先の入閣で、なかなか余裕がない。総務相を退く時が来たら、飼うつもりでいる。たまにペットショップで品定めしてみると、高貴で高価な猫が多いのに驚く。そこらで見かける野良の子猫の方がかわいいなと言う気がしている。スウェーデンの子と同居する日はいつだろう。